2009年04月10日

紙飛行機

 こつん。俺の頭に当たったのは、白地に罫線のはいった縦長の三角形。本日3機目の紙飛行機。「てめ…、いい加減にしろ」机の上に広げた週刊ジャンプに着陸したソレを、俺はぐしゃりと握りつぶした。「谷内やちくんてばひどーい。それ、最高のバランスに折れたのにぃ」他人の頭に紙飛行機を意図的に当てておきながら被害者ヅラで不平を鳴らす坂下は、白い小さな顔も華奢な肢体も少女じみているのに、やるこた小学生男子な高校2年生だ。2年生が修学旅行で出払っている3日間、身体が弱いというよく解らない理由で体育すら見学しっ放しの坂下と、陸上部でハードル競技に励みすぎて腰椎を傷め旅行を断念した俺は、二人きりの教室で課題をこなすことになっている。その初日から3日目の今日に至るまで、坂下はせっせと紙飛行機を折り俺に向けて飛ばしていた。 紙くずと化した紙飛行機を教室の後ろのゴミ箱に捨てに行った帰り、その途中の席にぐでーっと座っている坂下の旋毛を、俺は折り曲げた人差し指の角でぐりぐりしてやった。偉哥三鞭
「あたた。ギブっす、谷内くん、ギブ」はぁぁぁ…。俺は盛大に溜息をつく。「おまえさー、なんでそう俺にかまうわけ?」訊くと、「好きな子には意地悪すんのが男の子だし」と、旋毛を両手で護りつつ、たわけた返事をよこした。「『だし』じゃねぇ。まじウザいからヤメロ」坂下には真面目に答えるつもりはないらしいから、俺はそれだけを言い捨てて自分の席に戻った。「愛してるのにぃ」まだ言うか。でもソレには反応してやらずに、「くん付けすんのもヤメロ。キショい」と、日頃思っていることを口にした。クラスの連中は男子も女子も、互いの苗字か名前を呼び捨てにしているのに、なんでだか坂下は俺だけに「くん」をくっつけやがるんだ。「でも谷内くんは『谷内くん』て感じだし」「『だし』言うな。その喋り方嫌…」嫌い、と言おうとした舌が固まった。坂下の瞳がふるっと揺れたように見えたから。そんな目をするのは反則だ。どっちかっつーと苛められてるのは俺だろ?「課題できたのかよ?」話題を逸らす。「谷内くんがジャンプ読んでる暇にね」黙っていればキレイな顔に、坂下は小生意気な薄笑いを浮かべた。さっきは泣きそうだったくせに。ふん。俺は無意味に鼻を鳴らしてジャンプを机にしまい、初日で飽きて放り出していた課題を再開した。維亭ダイエット Slimming Energy

 翌日の朝、坂下と俺の机の上は修学旅行のお土産で埋まった。それぞれに親しい友人がいて、そのメンツは見事なほどにかぶらない。坂下組は大人しい文学少年タイプで、俺組は体育会系になりきれない軟派アスリートたち。よって、買ってきてくれたお土産もずいぶん毛色の異なったものだ。坂下の机の上には沖縄の貝や砂を使って創られた綺麗な小物、俺の机の上には「貰って困る観光土産ベスト10」みたいなブツが積み上げられた。「イヤガラセかよ」包みを開けてがっくりと落とした俺の肩を、かわるがわる叩いて悪友たちは笑ったけど、「身体治して、いつか自分で行って、自分で好きなもん選びな」というのは、半ば以上本気の励ましなんだろう。

 放課後、部活を休んでいる俺が土産の詰まったレジ袋をシャカシャカ言わせて校庭の隅の駐輪場に向かっていると、もうひとつのシャカシャカが小走りに追いかけてきた。 「谷内くん」「だーかーらー」くん付けはよせ、と言いかけた鼻先に、坂下が小さな青いビニール袋を突き出した。「やる」「なに?ゴムとか…」ちょっと茶化してみたかったのに、坂下は少し俯いて長い睫をしばたたき「お土産、かぶってたから、一個やる」と口を尖らせた。尖らせる場面ではないと思うけど、とにかく尖らせた、愛らしく。「お…そか。さんきゅ」一日に一度は反則な表情をする奴だ、とか内心でこぼしつつ袋を開けると、中から貝殻細工の小さな天使が現れた。「へぇ、カワイイな」思わず「カワイイ」なんて乙女な単語を口走るぐらい可愛い。しかし男が男にコレを買うか?文学少年の友情はよくわからん。維尼好(WeiNiHao)泡沫消毒液 摩絲型
「よかった」坂下が心底ホッとした声を出した。何がそんなによかったんだ?訊こうとして、視線を天使から坂下に移すと、その視界の中でヤツはふいに膝を折った。「坂下?」返事がない。胸を押さえて、地べたに丸まってしまった。「おいっ」しゃがんで細い肩を揺すると、坂下がほんの少しこちらを向いて「へ…き」と言った。「平気」と言いたいらしいが。「平気には見えないぞ、坂下。顔面蒼白だし」焦りまくる俺に坂下は、「あ…『だし』っ…て言…た」と息も絶え絶えにツッコんだ。こんなときにツッコんでんじゃねぇ、言って坂下の手首を掴めば、脈拍が異常な速さだ。「心臓か?」訊けばコクリと頷く。「保健室の…オバサ…呼んで…わかっ…るから…のヒト」「解った!すぐ呼んでくっからな!生きとけよっ」

 保健室を目指している間、俺の頭の中には、なぜかずっと坂下の紙飛行機が飛んでいた。飛行機を浮かばせる上昇気流に俺も乗っているみたいに、自己最高記録間違いなしのスピードで、腰の痛みも忘れて走った。保健室のオバサンを連れて駐輪場に戻ると、坂下は意識を飛ばしてしまっていた。俺が保健室で事情を説明してすぐにオバサンが要請した救急車は、ほんの数分で学校に着いた。坂下の紙みたいに白い顔だとか、閉じた蒼い瞼だとか、意思の通わないモノみたいな手だとか、サイレンの音だとか、オバサンのてきぱきとした動きだとか、突っ立ってる自分の爪先だとか、全部がテレビ画面の向こう側の映像みたいに遠かった。坂下は救急車に乗っけられて行ってしまった。オバサンが付き添ってった。俺は、坂下のカバンと修学旅行土産の詰まったレジ袋と共に、駐輪場に取り残された。「死なねーよな」誰に言うともなくつぶやいて、坂下の荷物を拾い上げた。すると、レジ袋の下から折りかけの紙飛行機が出てきた。俺が走り去ったあと意識を飛ばすまで、あの状況で坂下はこれを折っていたらしい。「あのバカ…」無性に腹が立って乱暴に紙飛行機を掴むと、それは半分開いている。その内側に、力の入らない弱っちい文字が書かれているのに気づいた。唯美OB蛋白痩身素第4代

「あ」
「い」
「し」
「て」
「た」

 愛してた。愛してた?「た」だとっ!?坂下が俺を「愛してるのにぃ」とほざいたのは、つい昨日のことだ。冗談としか思わなかったし、頭がいいのにバカを見下さなくて、口では毒を吐くけど実は優しい坂下のことは元々嫌いではないとは言え、ヤローに本気でンなこと言われたら退く。だけど、なんでいきなり過去形になるんだ?それだけは許せない。3日間毎日俺の頭に紙飛行機をぶつけてたくせに、これだけ遺書みたいじゃないか。毎日、と思い返して、ふと気づいた。ぶつけてたのが目的じゃなくて手段だったとしたら…。こんなふうに、俺に紙飛行機を開かせたかったのだとしたら…。俺は坂下のぶんも自分のぶんも荷物を置き去りにして、教室に駆け戻った。教室には数人のクラスメイトがまだいて、全速力で走ってきて脇目も振らずゴミ箱に突進し中のゴミを床にぶちまける俺を、アタマおかしい奴を見る目で見ていた。そんなん平気だけどね。昨日まで修学旅行だったからゴミは大して溜まってなくて、罫線のはいったぐしゃぐしゃの紙飛行機たちはすぐに見つかった。震える手で、俺はそれを一つ一つ開いていく。その全てに、五文字のひらがなが書かれていた。唯美OB蛋白痩身素第1代

 あ い し て る

 一音ごとに想いをこめたのに違いない、丁寧な優しい文字。悪ふざけで書ける文字ではないと解った。生きとけよ、坂下。これ全部持って見舞いに行ってやる。過去形になんかさせてやらない。坂下に面会が許されたのは一週間後だった。「見舞いに来てやったぞ」恩着せがましく言うと、坂下はベッドに上体を起こして、「生きといてやったぞ」と偉そうに笑んだ。「谷内くんが『生きとけよ』って言ったから、願いをかなえてやった」相変わらず「谷内くん」だ。でも今の俺には、坂下が頑なに俺を「くん」付けする理由が解ってしまっている。「おまえ、自分が死ぬと思ってんだろう」坂下が黒目がちの大きな瞳を瞠った。「死んだあとも俺がおまえを忘れないように、クラスで一人だけ『谷内くん』なんだろ?」坂下の色の薄い唇が「あ」という形に開く。「そんで、俺にぶつけてた紙飛行機は、こりゃ恋文だよな」と、カバンから紙飛行機だった紙の束を出した。ラブレター、って言ってもよかったんだけど、恋文、のほうが恥ずかしいからこっちにした。案の定坂下は頬と耳を真っ赤にして俯いた。唯美OB蛋白痩身素 全身痩
「あ い し て る」森本レオばりに優しく、恋文を読みあげる。まだ一枚目なのに、坂下は首筋まで赤くしている。「あ い し て る」二枚目。「あ い し て る」三枚目。「あ い し て る」四枚目。五枚目、六枚目……。坂下は泣き出した。谷内くんは意地悪だ、震える声でそう言った。意地悪?冗談じゃない。「俺は怒ってるんだよ」「ぼくがきみを…好きになったから?」「ちげーよ!」つい声を荒げて、俺は最後の紙飛行機を坂下の手に押し付けた。「あいしてた、だと?ふざけんな。俺が気づかないような告白して、おまえが倒れて俺が頭真っ白になってた間にそれ過去形にして…」怒りのような、悲しみのような、愛しさのような感情がこみ上げて、俺はぎりっと奥歯を噛み締めた。
「おまえがあのまんま逝ってたら、過去形の恋文なんか遺された俺はどうやって忘れるんだよ」「谷内くん」「忘れらんねぇだろ」「谷内くん」「だから、くん付けすんなってばよ」「谷内…」「そんなことしなくても、おまえは俺のトクベツだよ」「……」あ、固まった。固まっても可愛いな、坂下は。今は俺の本棚にある、貝殻細工の天使よりも可愛い。そんなふうに感じてる俺は、既に末期だよ。末期な俺は、坂下の小さな頭をそっと胸に抱いた。「手術、ぜったい成功するから」言うと、坂下の肩がきゅっと緊張した。「知ってたの?」「おまえのお母さんから聞いた」「ぜったい成功する?」「する」なんの根拠もなく断言した俺の声は、涙を含んで揺れていた。失敗の可能性も少なからずあるという手術。でも受けなければ後がないのだと、坂下のおふくろさんは泣いた。 「しかたない、他ならぬ谷内の願いだから叶えてやるよ」「頼むよ」本当に、叶えて。「ずっと現在形で『あいしてる』って言ってくれよ。応えるから、応えたいから、俺」こんなセリフは出来れば女子相手に言いたかったけど、こくんと頷く腕の中の男子がこんなに大切なんだから仕方がないよな、と納得する俺がいた。 唯美OB蛋白痩身素 第3代

「もう一回言って」「街なかだぞ。いい加減カンベンしろ」「やだ。応えるって言ったじゃん」「応えてるだろーが。ほれアイシテル、アイシテル、アイシテル」「心がこもってない…」「ってー!」足踏みやがるし。元気になった坂下は血色がよくなったぶん更に可愛いから、好きな子ほど苛めたい男子たる俺は、ついついからかいたくなるわけで。爪先の痛みに空を仰ぐと、そこには雲ひとつない青色が広がっていた。紙飛行機日和だ。
posted by chinaseiryokuzai at 11:10| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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